『本郷猛』に狂った日々 2号
主演が佐々木剛氏に交代してからの『仮面ライダー』は、本郷猛の「生真面目で悩める科学者」から、一文字隼人の「明るくて奔放なカメラマン」というキャラクターの変化、変身ポーズの初導入、仮面ライダーのコスチュームデザインのカラフル化などによって、番組のテンポも軽快になり、それは視聴者の子供たちに大いに受け入れられた。いわゆる『変身!』ブームのはじまりである。
佐々木氏による新しい仮面ライダー像は完全に定着し、多くの子供たちにとって、初期の藤岡氏の印象はどんどん薄れていった。しかしながら、あくまで「仮面ライダーは本郷猛のほうがカッコいい!」と主張する子供たちも存在したのである。そのひとりにぼくがいた。
そもそもが、変身ヒーロー番組(昔はジャリ番組と呼ばれていた)の主役俳優は、一般ドラマの主役と比べるとその重要度・存在感は薄かった。彼らは悪く言えばドラマ進行上の場つなぎであり、真の主役は、あくまで変身後の『超人』なのだから仕方がない。
藤岡氏以前のジャリ番組の俳優を見る(そんなに多くないけど)と、そこそこハンサムで頼れる感じだが、どことなく無個性で存在感に乏しい、とイメージがある(藤岡氏以後もその傾向は根強く残っていた。オダギリジョー=仮面ライダークウガの出現まで)。
がしかし、藤岡氏はそれまでのヒーロー役者と一味違っていた。長髪が似合っていて、スマートで、意志の強そうな二枚目。それでいて笑うと妙に人懐っこい。彼の持つ個性は単なる『超人に変身する前の、場つなぎ的な青年』を超えていた。ともすれば仮面ライダーそのものよりも強い存在感とオーラを放っていた。
「こんなカッコいい人いない!役柄にピッタリだ!この人なら変身して仮面ライダーになるのも納得できる!』・・・そんなわけで九州の片田舎に住む小学4年生(ぼくのこと。当時)は、生まれて初めて、生身の俳優さんをマイ・ヒーローとして持つに至ったのだった。
しかしなにしろ番組の放送が都市圏の半年遅れという田舎だったため、リアルタイムでは藤岡氏の情報は皆無だった。いつ怪我が治るのかもわからず、何より番組への復帰自体ないだろう、と思われていた。だからその頃のぼくは現役で活躍していない役者さんを熱烈に応援していたということになる。
ともだちのタカオカくんとかトネガワくんに「おまえー、もうライダーは一文字隼人なんだからさぁ。出なくなった本郷猛好きなのやめろよぉ」と言われても、ぼくは本郷猛をひいきし続けた。
それからしばらくたった頃、本屋で子供向けTV雑誌の記事を立ち読みしていたぼくの目と体と呼吸が(一瞬)動きを止めた。そこにはこう書かれていた。
『本郷猛が帰ってくる!』
つづく。
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